森谷正規「1ミリシーベルトの呪縛」という新書を図書館で見つけて借りました。
2012.2発行ですから、震災1年になる前に書かれています。
書評でもよく見た気がするので、多くの方が既に読んでおられるかもしれません。とてもよい本だと私には思えました。

特筆点は、この本の中で、著者が放射線に関する10冊の本を批評し、かつ、見るときの視点について書いているところです。

私は福島県立図書館の放射線コーナーの本を見て「コンナ本もアンナ本もあるのか」と、頭がクラクラしたのですが、森谷氏もいろいろな本を読んで似たようなことを感じたようで、「良書と言えるものはほとんどなく、原発事故後に急いでデッチ上げた本もいくつかあります」としています。

読むときの視点として森谷氏が書いているのが以下の6点。
①肝心の数値をいかに具体的に示しているか、それを基に論じているか
②問題点である100ミリシーベルト以下の微量の放射線の影響について、いかなる立場をとっているか
③年間1ミリシーベルトというICRPの基準が妥当であると考えているか
④子供への影響について具体的に述べているか
⑤結果として影響をどのように考えるか、いかに受けとめるかについて言及しているか
⑥一般に向けたわかりやすさを、どれほど意識しているか


この6項目を指標に、森谷氏はいろいろな本について、査定していますが、一部を紹介しましょう。

◆「内部被曝の真実」児玉龍彦(幻冬舎新書)
(略)これも放射線問題に便乗して急いで寄せ集めで作った本です。その全体において、著者自らが事故周辺地域に行って、除染作業に奮闘している部分が激情的に述べられています。その努力は頭の下がることですが「非常に危険」「非常に大変」の言葉が続出していて、これは研究者が使う言葉ではありません。どれほど危険なのか、どれほど大変なのか、それを明確に示していないのが問題です。(略)

放射性セシウムによるチェルノブイリ膀胱炎というのが、他には見られない内容であり、注目すべきですが、ここでも、その危険性がどれほどあるのかの数値はありません。ただ、福島、二本松、いわき市の女性の7人から、母乳に2~13ベクレル/ℓのセシウム137が検出され、これはチェルノブイリの住民の尿中セシウム137にほぼ匹敵するという記述があるだけです。これでは科学的根拠にはなりません。福島県全体にチェルノブイリ膀胱炎が多発する恐れがあれば大問題ですが、それは、はたして「真実」でしょうか。(略)

国民に訴えようという意気込みは非常に強いのですが、感情的になっていて、論理的に諄々とわかりやすく説いているものではありません。

◆「原発・放射能 子どもがあぶない」小出裕章・黒部信一(文春新書)
(略)「放射線が怖いので、東京から引っ越そうと思っているのですが、どこが安全でしょうか?」という質問があって、それに「安全と言える場所はありません。福島からの死の灰が、国内はもちろん、世界中にばらまかれてしまったのです」と答えています。これでわかるように、事故の影響を誇大に言っていて、不安に思っている人に真実を語ろうとする本のようには思えません。

肝心の数値は、ありません。福島の子供たちの尿からセシウムが検出された、東京の母親の母乳からセシウムが検出されたと言いますが、その量については何も言っていません。(略)

真剣に子供のことを考えて、なんとか有益な情報を得たいと考えているお母様方は、題に釣られて買うと何も分らずがっかりるすでしょう。

◆「内部被曝の脅威」肥田舜太郎 鎌仲ひとみ
(略)2005年に出版された本であり、福島原発の事故に直接に関連する問題に関しては、述べられていません。なぜこの本を購入したかと言えば、テレビで肥田さんが、被爆者の中で、明るく陽気に過ごしてきた日とはガンになるのが少ないという趣旨の発言をなさっていて、とても有用な情報だと思って捜し求めたものです。残念ながらそれに関する記述はありませんでした。

<<参考>>
icchouさんがブログ「ポストさんてん日記」で、専門家について「診断」しており、参考になります。
「きわめて主観的なメモ(信用する専門家、しない専門家)」
「専門家(学者、医師など)を正しく評価するコツ」




それと、森谷氏の後書きが胸に迫りましたので、移しておきます。

                あとがき
 本書を読んでいただいた多くの皆様が、"放射線は怖いという空気を吹き飛ばすのに一役買っていただけると信じます。福島県及び東北の米、野菜、牛肉それに魚などを積極的に購入して下さり、またこの際、他の地域ではなく福島に観光に出掛けて下さい。何とか風評被害をなくすよう努めて下さい

 福島県の方々にお願いします。"福島は安全だ"と国民に広く認めてもらうためには、ご自身がそれを信じ切ることがどうしても必要です。放射線の間題は発ガンですが、そのリスクは、ごく一部は別として気にすることはないほど低いと正しく理解することです。

 福島県ではこれから長期にわたって放射線の影響に関する健康調査を行うようですが、そこで提案です。この不幸な原発事故をむしろプラスに変えることができます。怖いのは、放射線よりガンそのものです。これを契機に県民の方々がガンを少しでも防ぐように、タバコは止める、お酒は控えめにする、何かの運動をする、太り過ぎ、痩せ過ぎに注意をする、塩分は少なくする、野菜をどんどん食べるといった生活を送ると、10年、20年後の健康調査の結果として、ガンでの死亡の比率は他の県のどこよりも低いという結果が出るのは間違いありません。

 とても気になるのは福島県の子どもたちです。周囲からしばしば甲状腺ガンのことを聞かされ、毎年検査をされることになって、その怖さをどのように受け止めているのでしょうか。
 それこそ何の罪もない子どもたちを、怖がらせ過ぎてはいけません。毎年の検査がいつまで必要なのか、何歳まで行うのか、専門家を集めて深く深く検討して、止める時期を判断して下さい。親が不安だからといつまでも検査すると、子どもたちの頭から甲状腺ガンが抜け切らず、本当に可哀想です。

 避難地域の方々、ぜひとも早い解除に向けて市町村長と共に懸命に動いて下さい。最も深刻であるのは、帰還困難区域の方々です。このままでは、皆さんの愛する町がまさしく"死の町になってしまいます。皆さんこそ、死の町を受け入れざるを得ないのか、高くはないリスクである発ガンの恐れを覚悟して町に帰るか、秤量をして決めないといけません。
 早期に帰還する道もあるはずと考えて下さい。政府の決定は絶対ではありません。ともかくすべての皆さんが、放射線に適切に対応して下さるようお願いします。「1ミリシーベルトの呪縛」を脱して下さい。
 本書は、実は9月早々にほぼ書き上げていました。8月に入ってやはり本を出さねばと気づいて、できるかぎり早く読んでいただきたいと昼夜兼行で書きました。ところが、出版社を探すのに難渋しました。私がいくつか声をかけ、友人にもお願いして、7,8社に当たりましたが、みな駄目でした。

 ところが、12月後半になって『誤解だらけの「危ない話」というまったく同様な主旨の本を出している出版社であれば可能性があるかもしれないと話を持ちかけると、出版部長の鈴木廉也さんに即座に快諾していただきました。

 まさに、捨てる神あれば、拾う神ありです。もっとも、次から次へと断られるのも良いことがあって、この3ヵ月の間に、中身をいっそう充実させることができました。この幸運を感謝し、世に本書が役立つものになることを切に願っています。

    平成24年1月                    森谷正規

太字にしましたが、・・・その中で最後の、帰還困難区域の方々への呼びかけは、震災後3年3カ月たち、虚しく聞こえてしまいます(それ以外は、現在進行形です)。この「1ミリシーベルトの呪縛」は、本当は、一番帰還困難区域の方々に言いたかったのではないでしょうか。
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